全てが久しぶりで
練習を終え、と香穂子が外に出てみると空は紅く色づいていて
夕焼けは三分の一ほど沈んでいた。
今日の練習のこと、セレクションや参加者のことを話ながら足を進める。
の手首に掛けられている日傘は、朝、柚木が畳んだ状態のまま開かれていなかった。
そしてそれは
偶然なのだろうか。
それとも彼がつくった必然なのだろうか。
「、日野さん」
声がした。
二人を呼ぶ。
聞き慣れた声。
聞き慣れた呼び名。
なのに久しぶりで、耳が少しくすぐったい。
二人同時に振り向くと、やはり見慣れた彼の姿。
何時もの笑顔。
しかしにとっては、少しだけ不自然な笑顔。
「今から帰り?」
「えぇ。梓馬も?」
名前で呼ばれたから、名前で呼んでみた。
学校なのに。
戸惑いは、今日の朝のことでで消えたから。
不安はまだ残るけれど、大丈夫。
それは、柚木が距離を縮めたから。
名を呼ばれたことに、柚木は内心満足したようで。
「あぁ。生徒会の手伝いをした後、少し練習をしていてね」
「それはお疲れ様」
「・・・そうだ。今日、の家に寄る予定だから一緒に帰らない?」
いきなりの提案。
誘われたことは嬉しかった。
でも、戸惑った。
誰にも遠慮はしてないし、柚木と二人になるのが恐いわけでもない。
しかし、直ぐに「うん」と頷けなかった。
それはまだ、外されたはずの二人の間の壁が、まだ薄っすらとにだけ見えているから。
「えっと・・・私、香穂ちゃんと帰ろうと思っていたんだけど・・・・・・」
その言葉を聞き、柚木は一瞬だけ香穂子を睨んだ。
それを香穂子は気付き、とてつもない恐怖と悪寒を覚えた。
ここで先輩と柚木先輩を一緒に帰らせないと・・・・・・
後で何されるか分からない!
そう悟った香穂子は
「別に私は大丈夫ですから、柚木先輩と帰ってください!ほら。私は途中までだけど、柚木先輩は家まで送ってくれますよ」
頑張って笑顔を保ちつつ、どうにかを柚木と帰らせようとする。
は「そうね・・・」と悩むように人差し指を顎に当て、香穂子と柚木を見比べた。
そしてある異変に気づき、は人差し指を離すと二人に微笑んだ。
「分かったわ。今日は梓馬に送ってもらうことにする」
その言葉に柚木は笑み、香穂子はほっと安心し胸を撫で下ろした。
どちらもに気付かれぬよう。
そして三人一緒に門まで歩いていき、と柚木は車へ乗り込み、二人一緒に帰っていた。
香穂子はそれを見送ると、もう一度安心の吐息を吐き出すと、家へ帰るべく歩き出した。
大きな大きな夕陽はもう半分以上沈んでいて
真っ赤に染まった空は
まるで恋する心のようだった。
+++++++++++++++++
柚木様登場。
香穂ちゃん睨まれて焦り焦りです。
この後、香穂子とはちょっとおさらば。
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