彼女はみんなの人気者

梓馬の用事は、私のお祖父様に茶器を届けることだったの。 私の家は茶道の家元で、華道の家元である梓馬の家とは古くからのお付き合い。 そんな私達両家の間には、幾つかの決まり事があるの。 その中の一つに、 「互いの子供に互いの技術を伝統する」 というものがあってね、 梓馬もそれに従い、私のお祖父様に茶道を教わってきたの。 全てのことを終えた今でも、たまに家に来てお祖父様と何やらお話をしながらお抹茶を点てているわ。 それは私も同様で、私は梓馬のお祖母様に華道を教わってきた。 今でも月に2.3度ほど、先生に御呼ばれをして先生の前でお花を活け、技術向上を心がけているの。 梓馬はお祖父様に茶器を渡し、二言三言話すと帰っていった。 見送る私に 「もう、梓馬さんなんて呼び方しなくて良いから。俺も前のように呼ぶから、も・・・な」 そう言って。 それはどういう意味なのでしょう。 いえ、意味なんてないのかもしれません。 でもその言葉に胸が高鳴ったのは 事実だと認めるほかありません。 * * * * * * * * * * * * *      今日は車での登校。 連日歩いて登校という日はあまりないし それに、また柚木に捕まって車に乗せられて、柚木教に目をつけられるのが嫌だったからという理由で。 運転手に見送られ、は門を潜り、校舎へ向けて歩き始める。 二呼吸置きくらいの挨拶に、笑顔で挨拶を返しながら。 それは人の波が遠ざかっていき、やっと落ち着いて呼吸が出来るようになったときだった。 「先輩」 後ろで呼ぶ声がしたのでは立ち止まってゆっくりと振り向いた。 声で、誰が呼んだか分かったから。 は声の主を視界に入れ、確信と共に微笑んで。 「おはよう、蓮君」 「おはようございます」 声の主は音楽科の生徒で、ヴァイオリン専攻の月森だった。 去年から面識はあったが、親しくなったのは 香穂子がセレクションの参加者に選ばれてから。 月森がの隣まで来たので、も止めた足を進め始める。 は何時もと同じ歩幅で速度で。月森はそれに合わせて。 「第二セレクションの曲は決まったの?」 「はい」 「じゃあ、今度聴きに行こうかしら」 「えっ」 半分本気、半分茶目っ気っぽく言った言葉に、月森は小さく驚きの声をあげた。 喜び、恥ずかしさ、嬉しさ。 それらが混ざって顔へと出てしまう。 赤い顔。 けれどは赤い顔に気付きながらも、それが好意的なものだとは思わず 勘違いをして、心配そうに不安そうに 「・・・・・・ごめんなさい、嫌だった?」 「いえ。嫌じゃないです」 「本当?」 「はい。嬉しいです」 ほとんど見たことない、月森の笑顔。 もしかして初めてかもしれなくて。 整った顔から創り出されたその笑顔はとても美しく、思わずは一瞬ドキッとしてしまった。 は、不意な一瞬の心の高鳴りに気を取られ 彼が近付いてくる事に、気付いていなかった。 「」 呼ばれた名に、月森の笑顔での高鳴りとは違う もっと激しく、心臓が波を打って、は不安と驚きと緊張と そして幸せを感じながら、振り向いた。 艶やかでふんわりとした美しい黒髪を揺らして。 「おはよう」 「おはよう、梓馬」 自然と笑みが零れて、顔の線が緩みそうになるのを必死で抑えて。 立ち止まって、柚木が隣に来るのを待つ。 左には月森。右には柚木。 端から見れば、両手に花状態。 二人とも、音楽科の有名人だから。 けれど、も負けず劣らず有名人。 どちらかというと異性に圧倒的に好かれている二人と違って、男女問わず人気がある。 「二人で何を話していたの?」 「セレクションの曲は決まったの?って。梓馬は決まったの?」 「あぁ、決まったよ」 「先輩」 「はい」 呼ばれたので、柚木に向けられていた顔を今度は月森の方へと向ける。 視界に入れた表情は、さっきとうって変わって不機嫌そうなもので・・・・・・ 「どうしたの?」 「いつ聴きに来ますか?」 「えっと、蓮君が決めていいわよ」 「・・・・・・じゃあ、今日で」 「今日?」 「はい。・・・・・・駄目ですか?」 「ううん、大丈夫よ。じゃあ、放課後に蓮君の所に行くわね」 「聴くって何を?」 問われ、また柚木の方を向く。 両手に花状態ではなく、これでは板ばさみ。 「蓮君の演奏をね、聴かせてもらうの」 「へぇ」 柚木もご機嫌斜めな様子。 少々ブラックなオーラが漂い始めている。 え?どうした二人とも機嫌悪そうにしているの? 原因がいまいち良く分からないわ。 はそんなことを疑問に思い、不機嫌な二人に挟まれている状態が少し居心地悪くなってきたので、 誰か来てくれないかな・・・・・・?と助けの念を発した。 その時 「先輩」 この声は・・・・・・と振り向いた先には 「梁太郎君」 の姿。 「おはよう」 「おはようございます。・・・って」 小走りで達の方へと来た土浦が、一瞬止まった。 その目に映るのははではなく、両隣の二人。 二人もと同時に振り向き、顔は土浦の方へと向けられている。 それはとても不機嫌なもので 月森は何時にも増して、眉間に皺が。 柚木は何時も通りの笑顔を浮かべているが、オーラがどこか違う。 「月森・・・はまぁ何時も通りとして。どうしたんすか、柚木先輩。何だか機嫌悪そうですけど・・・・・」 「僕だって機嫌が悪い日くらいあるよ、土浦君」 「あっ、はい、そうですね」 棘のある口調に 苦笑いを浮かべる土浦。 梓馬・・・・・・仮面が少しだけ、剥がれてるよ。 心の中ではつっこみ、その原因を探したが分からず、考える事をやめた。 「あっ、そうだ。先輩、ちょっと教えて欲しいとこがあるんすけど・・・・・・」 「どこ?言っておくけれど、私は文系だから化学や物理は教えられないわよ」 「分かってます」 歩きながら鞄の中を漁る土浦。 探し出すのを待っていたら、柚木と月森は二.三歩前を歩き出してしまった。 と土浦より少し前を歩く二人の間には火花が散っている。 月森は柚木を睨み、柚木は黒いオーラを発している。 「・・・・・・何時から先輩と仲良くなったんですか?」 初めに口を開いたのは月森だった。 それを機に、言葉の裏で戦いの火蓋が切って落とされた。 「何時からって、の家と僕の家はとても仲が良くてね。小さい頃からとは仲が良いよ」 「でも、今までそんな素振りしてなかったじゃないですか。呼び方だって・・・・・・」 「あぁ、それは・・・ちょっと、家の事情でね。少しの間距離を置いていたのだけれど、やめたんだ」 意味深な言葉に、月森は怯む。 それは柚木の思惑通りで。 対する言葉を発してこない月森に、柚木はくすりと気付かれぬよう、 勝ち誇ったように微笑んだ。 そんな二人の少し後ろにいると土浦。 数学の教科書が見つかり、立ち止まって土浦は問題のページを開き「この問題です」と指を差しながら、 前の二人を見て、考え始めるに話しかけた。 「あの二人、どうしたんすかね」 「さぁ・・・私も分からないわ。ほんと、どうしたのかしら?」 教科書から顔を上げて二人を見て、ハァと吐息を吐き出して。 はまた教科書へと顔を戻した。 「分かります?」 覗き込みつつ問うたら、意外にも顔が近くて 土浦はハッと顔を離した。 一気に顔が赤くなり、体温も上昇した気がした。 「うん・・・大丈夫そうよ」 は土浦のそんな行動にも気付いていなく、問題と言葉に集中している。 土浦の心の音はまだ鼓動を速く打っていた。 「でも、紙とかに書いた方が教えやすそうだから・・・・・・」 はパタンと教科書を閉め、土浦の手首を掴むと 「梁太郎君の教室行って教えるわね。だから、早く行きましょ。でないとチャイムが鳴ってしまうわ」 駆け出した。 「えっ、えぇ」 思いもしなかった行動に驚き、心臓がまた速くなって、平常心が失われていく。 土浦は促されるまま駆け出した。 それほど速い速度ではないが、普通の速度で歩く前の二人よりは速いもので 「梓馬、蓮君、またね」 抜かす時に笑顔を送り、玄関へと駆けて行く。 二人の目に映ったのは、初めにの笑顔。 そして次に、握られた土浦の腕。 隣りにいるライバルから、一瞬にして敵意は土浦へと向けられた。 「ひっ!」 それはしっかりと土浦に向かっていったようで 「どうしたの?」 「いや・・・あの、何か凄い悪寒がして・・・・・・」 絶対あの二人だ!と思いながらも、掴まれた手を払おうとはせず どちらかというと勝ち誇った気分で玄関へと入っていった。 そんな二人の姿は 報道部の天羽のカメラに、しっかりと収められていたりする。 (柚木と月森のツーショットも)   +++++++++++++++++ ちょっぴりギャグ&逆ハー風味。 何か書きたいように書けず、未消化作品です。
BACK/ NEXT